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スタイルインデックス誕生から30周年にあたって
~Russell/Nomura日本株インデックスの歩みとこれから~
(京都先端科学大学ビジネススクール教授 加藤 康之)
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■はじめに -30年の節目に寄せて-
日本初のスタイルインデックスであるRussell/Nomura日本株インデックスが1995年に産声をあげてから30年が過ぎた。まずは、その間インデックスの管理・運営やユーザーサポートに携わってきた担当者の皆様の絶え間ない努力に敬意を表したい。本稿では、30年前、開発に携わった1人として、当時の状況を振り返ってみる。インデックス開発をスタートしたのは1993年である。ちなみにスタイルインデックスの理論的ベースと言われるファマ・フレンチの3ファクターモデルの論文が発表されたのも同じ年だ。当時、バリューやサイズ等ファクターや投資スタイルに対する認知度は低く、手探りのスタートだった。
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■なぜスタイルインデックスが必要だったのか -1990年代の機関投資家をとりまく環境-
日本で機関投資家による資産運用が本格化したのは1990年と言えるだろう。それまで生命保険と信託銀行に限定されていた年金運用が投資顧問会社にも開放された年だ。野村グループでも1980年代に野村総合研究所内に投資顧問部(現在の野村アセットマネジメントの前身)を設立し、資産運用ビジネスへの参入に備えた。投資顧問会社の参入が意味するものは運用手法の多様化だ。運用手法が多様化すれば、利用者はその評価や選択に直面することになる。そこで、重要なのは運用の評価基準になるものだ。資産運用先進国である米国の状況を調べると、「投資スタイル」という考え方が重要であることが分かった。つまり、運用の評価は、各運用ファンドをその投資スタイルに分類してから行うべきだということだ。その理由は、同じ株式運用でも投資スタイルの違いによって、そのパフォーマンスは大きく異なることが経験的に分かっていたからだ。この事実にいち早く気付いた米国の大手コンサルティング会社のフランクラッセル社(以下、ラッセル)では、当時すでに米国株式市場で運用ファンドを投資スタイルに分類して運用評価を行っていた。そして、その基準になるスタイルインデックスも開発していた。日本でも早晩同じニーズが発生するだろうと考えたわけである。
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■パートナーシップへの決断 -ラッセル社との共同開発へ-
スタイルインデックスの開発を決意してすぐラッセルの日本法人にインタビューに出かけた。そこで、詳しい話を聞かせてもらい開発への決意をさらに強くした。ところが、その帰り際に、ラッセル日本法人のR社長から衝撃の一言があった。「実は日本株式でもスタイルインデックスの開発を計画している。」これはまずいと思った。ラッセルが日本株式スタイルインデックスを開発したら、多くはそちらを使うだろう。オフィスへの帰りの電車の中で悩んだ。そして、共同開発を思いついた。ラッセルの東京オフィスにはインデックスの開発部隊はいない。米国本社の開発部隊が担当することになろう。日本株式市場の知識もデータも不十分のはずだ。米国株式市場で実績のあるラッセルと野村が共同開発すれば、投資家も安心して利用してくれるのではないか。野村のインデックス開発スタッフにも良い刺激になるはずだ。そう考えて、R社長に再度面談を申し入れ共同開発を提案した。幸い米国人のR社長は大の野村びいきで、私の申し出に大賛成してくれ、米国本社を説得するから是非いっしょにやろうと言ってくれた。後で分かったことだが、日本株式の経験が少ない米国本社のインデックス担当者にとっても渡りに船であったようだ。こうして、Russell/Nomura日本株インデックスが生まれることになった。ところで、なぜ、Nomura/RussellでなくRussell/Nomuraなのか。この順番は野村サイドから提案したことだが、その方が幅広い顧客に使いやすいのではないかと考えたからである。
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■開発時のこだわり -先行インデックスの課題解決-
1990年代初、機関投資家に利用されるベンチマークインデックスは平均株価である日経平均から時価総額加重型のTOPIXに移りつつあるところだった。機関投資家の運用には時価総額加重型のポートフォリオ(マーケットポートフォリオ)がより適切という認識が広まっていた。ところが、TOPIXには当時2つの大きな問題があった。それらの問題点とは、以下の2つである。
①インデックスにおける各銘柄ウェイトの計算に使う時価総額に発行済み株式数が使われていたこと
②東証一部上場銘柄に限定してそのすべて組み入れることまず①だが、当時、日本株式市場では企業間による株式持ち合いや金融機関など安定株主が占める比率が高く、純粋な投資家にとって発行済み株式数は投資対象とは言い難い状況だった。したがって、持ち合いなど安定株主に保有されている株式を除いた一般の投資家にとって投資対象となる株式、つまり、浮動株式で時価総額を算出し、ウェイトを計算すべきだと考えた。次に②の母集団を東証一部上場銘柄に限定することだが、機関投資家の運用に適さない超小型の銘柄も投資対象になってしまいパフォーマンスに悪影響を与えると指摘されていた。すでに一部に上場されている企業が一部から外される条件は緩く、いったん一部に上場されるとなかなか外れなかったためであった。インデックスの母集団の決定には市場の評価を入れるべきであり、一部、二部など市場区分をなくし、時価総額を基準に母集団を決めるべきだと考えた。(なお、TOPIXは最近になってこの双方をクリアすることになったのは周知のとおりである。)
また、スタイルの分類については、バリュー/グロースを決めるための指標についても悩んだが、結局PBRを用いることにした。PBR以外にもいろいろな変数がたたき台には上がったが、多様なバリュー投資戦略の評価に共通して使え、また、インデックスであるために出来るだけシンプルな指標が望ましいと考えPBRを使うことにした。なお、当時は企業が保有する不動産や保有株式の含み益が大きかったため、その調整を行い修正PBRとした。
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■投資家の反応 -導入当時に受けた問いと期待、懸念-
当時、スタイルインデックスに対する反応は多様であった。いくつかの年金基金からは、「今後はグロースインデックスだけ使えばいいのですね?」といった珍問を受けた。つまり、成長する銘柄のインデックスだからこれに投資すれば高いリターンが得られる、という解釈のようであった。グロースインデックスは将来成長する銘柄のインデックスではなく、将来成長すると多くの人が考えている銘柄のインデックスだと説明したが、十分に理解されたとは思えなかった。スタイルを選択する立場にあるアセットオーナーに対する教育の必要性を感じたが、これは現在でも変わらないだろう。
また、当時は資産運用業界の中核であった信託銀行や生命保険から説明に来て欲しいという依頼を多く受けた。特に信託銀行ではスタイルインデックスの登場を真剣に捉えていたようだ。ある信託銀行では「困った」という反応であった。その理由は、彼らの運用の中心が低PBR、低PER型の運用であったからである。スタイルインデックスが登場し、バリューインデックスと比較されると、超過リターンが消えてしまうという懸念だ。まさにそれがスタイルインデックス導入の目的の1つだったわけである。もう一つの反応は「不愉快」だった。不愉快というのは、アセットオーナーに余計な知恵をつけて欲しくないということだったのだろう。いずれにしろ、信託銀行とのミーティングは緊張感の漂うものであり、私自身も事の重大さを実感した。同時にスタイルインデックスの重要性を確信した時でもあった。
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■過去を振り返り、未来を展望する -スタイルインデックスの役割と進化-
スタイルインデックスの登場はファマ・フレンチの3ファクターモデルと併せて、ファンド分析の基本ツールとしてそれなりの貢献が出来たのではないかと思う。ファンドのリターンはまず3ファクターでリスク調整することは今や当たり前になっている。スタイルインデックスを利用した研究論文も多く発表されている。しかし、スタイル特化のアクティブ運用のベンチマークとして市場ポートフォリオ型のインデックスを使い続ける投資家も多く、アクティブ運用のベンチマークとしては予想通りに広がらなかった。アセットオーナーに対する認知度の拡大や教育が十分ではなかったこと、そして、運用機関のバリュー型運用は多様であり運用機関が既成のスタイルインデックスの利用を嫌ったのではないかと思われる。多様な運用手法に合わせるため複数のスタイルインデックスを作っておいても良かったかもしれない。
さて、スタイルインデックスは今後どうなるのだろうか。機関投資家にとって、運用の基準になるベンチマークインデックスの必要性は今後も変わらないだろう。プロの機関投資家にとって運用の評価は不可欠であり、運用を評価するためには基準が必要だ。ただし、基準になるのは、直感的にも分かりやすい市場ポートフォリオという状況は続くだろう。CAPMという理論的裏付けもある。一方、CAPMを拡張したファマ・フレンチの3ファクターモデルは実務界から広く受け入れられている。ファクター、つまり投資スタイルをベースにしたスタイルインデックスの重要性も変わらないだろう。ただし、最近はビッグテック銘柄の影響やファクターリターンの不安定性が問題になっており、時代に合わせたファクターのリニューアルは必要なのかもしれない。また、スタイルの定義を広義にすれば、ESG投資という超長期投資を評価するのに適したベンチマーク、あるいは、上場資産に比べて投資対象に偏りが大きいプライベート資産のベンチマークも必要だ。スタイルインデックスの今後の進化に期待したい。
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著者: 加藤 康之
京都先端科学大学ビジネススクール教授。
東京工業大学理学修士、京都大学経済学博士。
(株)野村総合研究所、同社海外拠点(ニューヨーク、ロンドン)、野村證券(株)執行役、京都大学経営管理大学院教授を経て、2021年4月から現職。
他に京都大学客員教授、東京都立大学特任教授、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)経営委員、財務省財政制度等審議会委員、証券アナリストジャーナル編集委員長、国民年金基金連合会資産運用委員長、お金のデザイン顧問、サステナブル・ラボ社外取締役などを兼務。