NOMURA-BPI公表40周年に寄せて
~日本初の債券総合インデックスの誕生と発展、今後の展望~

(日本証券経済研究所・特任研究員 堀江 貞之)

  1. ■はじめに

    NRI-BPI(現NOMURA-BPI)が1986年5月に日本債券市場の動向を表す本格的な指数として公表されてから40年の節目を迎えた。その後、機関投資家のみならず投資信託においてもベンチマーク(以下、BM)として広く使われる代表的な指数に発展したことは開発者として喜びに堪えない。まず40年の長きに亘り、当指数の発展に携わってこられた関係者の努力に敬意を表したい。本稿では、開発した当時の状況を振り返ると共に、今後の発展に向けた展望を述べてみたい。

  2. ■野村證券BOND-MISを活用した開発

    NOMURA-BPIが開発されたのは、日本でも投資顧問業法が制定され、信託銀行や生命保険会社だけでなく、投資顧問会社も含む機関投資家の債券運用が本格化しようとしていた時期であった。当時、債券投資の成果はまだ全面的に時価評価する状況ではなかったが、海外では債券投資の成果を時価評価するのが一般的であり、今後日本でも投資成果が時価評価される時代が来るとの見通しがあったことも事実だ。
    このような背景の中、1986年初頭に上司から、債券指数の開発を3ヶ月で行うよう命を受けた。筆者は当時、野村総合研究所(以下、NRI)入社4年目、野村證券公社債部・情報管理室のBOND-MISと呼ばれる、債券ポートフォリオの分析システムの開発を通じ、野村證券公社債部の地域金融機関のポートフォリオ営業を支援する仕事を担当していた。
    私と協力会社のプログラマー1名が担当し、結局4ヶ月程度で開発したが、短期間で開発を終了させることができたのには明確な理由がある。それは、①NRIに野村證券BOND-MISを構築した債券分析のノウハウが既にあったこと、②日本で発行されるほとんど全ての債券がデータベース化されており、「日本ファンド(正式名称はNRI日本公社債ファンド)」と呼ばれる、日本の全市中発行分の債券を含むポートフォリオが既に管理されていたこと、③日本最大の債券取引実績を持つ野村證券公社債部の取引データを活用できたこと、である。NOMURA-BPIは当時既に10年以上に亘り構築されていた、野村グループの債券市場に関わる様々な取引や分析ノウハウ、データ基盤の上に構築されたのである。

  3. ■米国の債券指数を参考にしたNOMURA-BPIの骨格

    NOMURA-BPIの骨格は当時の米国債券指数を参考にして作成した。具体的には、①ソロモン・ブラザーズ指数、②シェアソン・リーマン・ブラザーズ指数、③メリルリンチ指数、という当時の米国の代表的な3つの指数の内容を調査し、その内容を基準に構成銘柄の基準を決定した。構成銘柄の要件は今も踏襲されている部分が多い。具体的には以下の通りである。

    ① 公募債
    ② 円貨建て
    ③ 固定利付債
    ④ 残存年数1年以上
    ⑤ 残存額面10億円以上
    ⑥ 事業債はシングルA格以上

    当初から機関投資家が活用できるよう、彼らが投資できる債券の構成銘柄の条件が何かを考え、債券投資の成果の良し悪しを正確に測定できる指数を目指した。指数公表時、信託銀行の年金運用部門や銀行の自己投資部門の運用者に指数の内容について意見交換した際、残存年数が1年未満になったら母集団から外れることや事業債の条件としてシングルA格以上にすることについて、一部異論が出たが、概ね債券市場全体の動向を示す本格的な指数が出来たことについて歓迎してもらったことを記憶している。
    開発当初、まだ競合となる債券指数はほとんど存在しなかったが、その後、証券会社等が債券指数を開発し、複数の債券指数が専門誌に掲載される状況であった。状況が大きく変化したのは、当時の年金福祉事業団(現在の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF))が国内債の政策BMとしてNOMURA-BPIを採用したことだと考えられる。日本最大の機関投資家が国内債のBMとして採用してくれたことで、運用会社や年金基金など、ほとんどの機関投資家が国内債のBMとして採用することになり、今では国内債のBMとして不動の地位を築いていると言える。

  4. ■40年を振り返る

    1986年の日本債券市場の規模は約180兆円、約6千銘柄という規模であった(市中発行分、途中償還考慮、その内、BPIは額面の82%、銘柄数で65%をカバー)。現在のNOMURA-BPI総合指数の額面が約1,200兆円であるので、およそ12%の規模ということになる。この間、大量の国債発行、ゼロ金利・マイナス金利を含む長期の低金利時代を経験するなど、日本の債券市場は大変革を遂げた。2019年6月には総合指数の利回りがマイナスに陥り約半年に亘ってマイナス金利が継続したこと、トータルリターンも1980年代、90年代は平均して年率6%台だったが、2000年代、10年代は年率2%弱のリターンに低下、2020年代(25年末まで)はとうとう年率▲2.5%という水準にまで低下してしまった。しかし政策金利が2024年3月にようやくマイナス金利から脱し、足下は1%まで上昇、総合指数の利回りも2%台を回復してきており、今後のリターンの押し上げ要因となろう。
    NOMURA-BPIの骨格自体はあまり変化していないが、環境変化に合わせて変化・拡大してきたことも事実だ。例えば、国債の20年債の発行が1986年末から始まったことから、「超長期(残存年数11年超)」という区分が出来、今では指数全体の3割を超える規模にまで拡大した。また、MBS(Mortgage Backed Securities)やABS (Asset Backed Securities)の発行に伴い、それらをベンチマークに組み入れたことも大きな変化と言えるだろう。
    一方、40年間にあまり大きな発展を見せなかったセグメントも存在する。事業債はその典型だ。日本企業の日本国内での円建て事業債の発行額は2025年でも25兆円程度である。残高ベースでも銀行の非金融法人向け貸出額の6分の1に過ぎない。日本企業の海外での外貨建て事業債の発行額が25年には日本国内の円建て事業債の発行額を超えたと言われており、国内の事業債市場は過去40年間、大きな発展をしていない。NOMURA-BPIでも事業債は全体の6%を占めるに過ぎず、存在感は小さい。

  5. ■現在の市場環境と今後の展望

    10年国債の金利が3%程度まで上昇した今、日本の債券市場はリーマンショック以降の低金利期とは大きく異なる飛躍の時期を迎えたと考えられる。前述の通り、低金利下で2020年以降はNOMURA-BPI総合指数は暦年ベースで23年を除きマイナスリターンが続いていたが、今後はリターンの向上が期待される。簡単なシミュレーションをすれば確認できるが、今から5年後に2%程度金利が上昇したとしても、今後5年間のトータルリターンはプラスになる。債券による安定した絶対リターンが獲得できる環境がようやく整ってきたと考えられるのである。
    依然として家計の金融資産の半分近くを預貯金が占めているが債券市場はその受け皿として大きな可能性を秘めている。NISA等の優遇税制もあり、グローバル株式投信などの成長資産に今は資金が集中しているが、本来、預貯金の最初の受け皿になるのは安定的なリターンが見込める公社債投信のはずだ。
    債券市場は株式市場と異なり、店頭取引が中心で、価格の透明性が相対的に低い。金利と債券価格の関係を十分に認識していない個人投資家もまだ多くいるようだ。低金利時代が長く続いたため、2000年代以降は低いリターンであったが、債券市場に対して一定程度の理解があれば、現在の金利環境下では今後一定の安定したリターンが獲得できることが分かるはずである。関係者が現在のインフレ下にある金利状況に鑑み、預貯金に比べ相対的に有利な利回りを提供出来る債券市場の魅力を積極的にアピールしていくことが重要ではないか。NOMURA-BPIはそのような環境下で、債券市場の動向を表す指標として、機関投資家だけでなく個人投資家にとっても重要度が高まることは間違いない。

堀江貞之

著者: 堀江 貞之

日本証券経済研究所・特任研究員、東洋大学国際学部・非常勤講師、三菱UFJアセットマネジメント・社外取締役、堀江リサーチ&アドバイザリー・代表取締役
1981年 野村総合研究所に入社、資産運用の調査研究業務に従事。2017年10月~2022年8月、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の初代常勤監査委員兼経営委員、2022年より三菱UFJアセットマネジメント社外取締役、2025年より日本証券経済研究所特任研究員。